一般的に、不眠の原因と言えばストレスや生活リズムの乱れなどが挙げられますが、東洋医学的な観点からみて意外と多いのが飲食の不摂生による不眠です。
飲食の不摂生にも色々ありますが、不眠と特に関連しやすいのが油っ濃いものや甘いものの食べ過ぎ、お酒の飲み過ぎ、水分の過剰摂取などです。
今回は東洋医学の観点から「不眠」について考えていきます。

坂井祐太
鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師。都内鍼灸院での勤務の後、2014年に江戸川鍼灸院を開院。
「最小限の刺激で最大限の効果を」を理念に、一度の施術で使用するツボは1~3箇所とごく少数なのが特徴。
院内診療の他、在宅診療にも積極的に行っており、望まれる全ての方に東洋医学を届けられるよう、日々臨床に取り組んでいる。
1 その不眠の原因は「痰」が原因かも
油っ濃いもの、甘いもの、過度の飲酒、水分の過剰摂取は、体の中「痰」と呼ばれる病理産物が形成されます。
「痰」というのは、体内に生じた余分な水分のかたまりで、喉につっかえて吐き出すことのできる痰が体内に溜まっているとイメージして頂けるとわかりやすいかと思います。
この「痰」が、みぞおちあたりに溜まってくると、上に昇ってしまった気が降りることができず落ち着くことができないので、眠りにくくなってしまいます。
ですので、治療としては、「痰」を取り除くと同時に痰が形成しやすい原因を解消することがポイントとなります。
この「痰」ですが、慢性的な運動不足の状態であると形成されやすいという側面もあります。
ですので、お散歩などの習慣をつけると、「痰」が形成されにくくなってくるのですが、思っていてもなかなかできないですよね…
自力だけじゃムリ!という方はぜひ一度専門家に相談するのをおすすめします。
2 飲食の不摂生による不眠症状の治療例
「飲食の不摂生による不眠」に関して「実際どんな感じなの?」とご質問を頂戴した事がありましたので、今回は症例を一つ紹介させていただきますね。
2-1 患者様に関して
- 【患者様】30代女性
- 【初診】平成26年9月
- 【主訴】不眠
【状況】
1年前(平成25年)8月の末頃から寝付きが悪化し、だんだんと中途覚醒が増えるようになってきた。
不眠が始まると同時に、体全体がだるくなりがちになり、痰がよく絡むようになった。
体のだるさや睡眠の状態は、雨の日や湿気の多い日に悪化しがちで、からっと晴れていると楽になる。
週に1回1時間程度ジョギングをしており、ジョギングをした日はよく眠れる。
【その他特記事項】
10代のころから受験などでストレスがかかると寝付きが悪化する、中途覚醒が増えるなどの症状があったが一時的なもので、ストレスが解消されるとすぐに眠れていた。
カレーや揚げ物が好物で、野菜類は嫌いなためあまり食べない。普段から軟便気味で、ベトッとして拭き取りにくい大便であることが多い。
2-3 治療方針
脾胃(胃腸)の水分代謝機能が低下すると共に、日々のストレスによって気の停滞が生じがちであったため、湿痰が心下(みぞおち)に形成され、気の昇降が適切に行われなくなったために不眠に至ったと判断。
よって、水湿の除去を主、行気(気を巡らせる)を従たる目的として鍼灸治療を行う。
2-4 結果
初診終了日、寝付けるまでの時間が60分から20分程度に短縮。中途覚醒の回数は変化なかった。
第2~4診:中途覚醒の回数が徐々に減少する。
第5~7診:中途覚醒ほとんどなし。寝付きも5分程度で眠れるようになる。痰が喉にからまなくなる。日中のだるさはほとんど感じない。
主訴緩解を確認し治療を終了。
3 治療に関する分析
もともと飲食が肥甘厚味(油物、甘味、味の濃い物)にかたよりがちであったため痰が形成されやすい状況であったところ、夏場に冷たいものを過食し脾胃を痛め、痰の形成を助長したと考えました。
また、日頃からのストレスによって気の停滞が慢性化し、水湿をうまく巡らせられない状況にあったことも原因の一つになっていると考えました。
1年ほど続いていた症状ですが、当院の受診を機に飲食を改めて頂いたため、こちらの予想よりも早く主訴の緩解を見た例でした。
まとめ
東洋医学・鍼灸医学は身体の「治癒力」を引き出す医学です。
今回の患者様のように、治癒力を引き出す環境を整えて頂けると、良くなるまでの期間がぐっと短くなります。
患者様と治療者とが二人三脚になり病に取り組むことのできた良い症例だったと思います。
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